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第464話 焦れの限界

四日目の早朝、桓騎からの伝令が信の元に訪れていた。伝令は飛信隊にその場に踏みとどまるようにと桓騎の指示を伝えた。信は飛信隊が作った好機を逃され、さらに馬呈軍に背後を取られ窮地に陥ってたため、感情を露わにしながら反論した。しかし、河了貂は飛信隊がこの地に留まっていれば依然桓騎軍は有利な局面であるため、そのつもりだと答えるが、それを黙って見ているほど相手は甘くないと言い切る。そこで、伝者は援軍を送ると桓騎からの言葉を伝える。貂は信用していいのかと問うが伝言にさあなとはぐらかされた。貂は飛信隊はギリギリまで粘るがそれでも昼までが限界であり、援軍を送るのであればそれまでにと伝えるよう依頼する。

そして、運命の黒羊丘攻防戦、四日目が開戦した。河了貂は昨日のうちに有利な地形は全て押さえていたため、主力はいつでも出られるように前線に置き、後方は楚水、渕さんに任せていた。
しかし、桓騎は相変わらず動かなかった。そのため再び戦場に戸惑いの空気が流れていた。飛信隊の後方は馬呈の攻撃に苦戦していたため、徐々に主力を後方に回していった。ここまで飛信隊のところ以外は前日と全く同じ膠着そのものであった。
だが、慶舎は怒りで目を血走っていた。慶舎は意地でも動きを捕捉させない桓騎に屈辱を感じていた。
慶舎の怒りは限界に達したため、動かなければ右翼の飛信隊を斬り落とすと飛信隊に対し、自ら先頭に立ち総攻撃をかけた。
その動きをみた桓騎は口元に笑みを浮かべた。



怒りで元々待ちのタイプである慶舎が我慢できなくなり、動き出させたというのは桓騎の作戦勝ちと思いますが、ここからどうやって、慶舎、紀彗を崩していくのか気になりますね
しかし、慶舎という人物の心理を桓騎はよくわかってますね…紀彗が総大将であったら、そのまま動かなかったでしょうから。ま、それなら桓騎は三日目に動いて趙軍側に大打撃を与えてたでしょうけど…

第463話 離眼の悲劇

老婆は羌瘣に離眼の悲劇を語り出した。それはまだ離眼一帯が治っていない頃の離眼城主が先代の紀昌の頃の出来事であった。
その頃はその一帯は離眼と暗何という城が地域の覇権をかけて争っていた。王都邯鄲はこれをよくある地方の小競り合いと思っていたが、実際は激しい戦争であった。力で圧政をひく暗何の唐寒とは対極に善政で民に慕われ、結束の固い離眼の紀昌。兵数で言えば暗何が倍以上であるが、戦上手の紀昌と猛者揃いの側近、練兵された兵団は暗何と互角に渡り合い、若き紀彗、劉冬、馬呈の台頭で戦局は離眼に傾きだしたのであった。紀昌はその戦いぶりを見て、親としての嬉しさを感じていた。紀昌は劉冬、馬呈の育ての親でもあったのだ。
日々勢いを増す離眼に対して暗何は決戦に出る。それは旦虎の戦いと呼ばれるものであり、離眼も全軍で挑むものの、財を叩いて周辺の兵を借り集めた暗何は五倍はいたのであった。凄まじい戦いで、奮戦した劉冬、馬呈も深手を負ったが、最後は五倍の敵をかいくぐった紀彗が自ら唐寒を討ち取り、離眼が見事に勝利したのであった。これで一帯は紀昌の善政が広がると喜んだが、長年の因縁はこれで終わりではなかった。
旦虎の戦いの後、唐寒の残軍を紀彗軍が負っている間に留守中の離眼城が落とされてしまったのである。襲ったのは唐寒の子、唐釣であった。臆病者で旦虎の戦いに出陣せずに暗何城に残っていた唐釣が城のわずかな衛兵を引き連れて急襲したのであった。離眼の城内には劉冬、馬呈もいたものの、ほとんどは旦虎から帰還した重傷兵のみであったため、離眼は落ちてしまい、城内にいた女、子供、老人全員が人質になったのであった。そして、唐釣はそれらの命と引き換えに紀昌と将校、兵の投降を迫ったのであった。紀彗は唐釣の卑劣な手に屈しないよう紀昌に迫るが、紀昌は自分は武将の前に離眼の城主であり、側近達は離眼の大人達だと言い、親が子供のために命をかけるのは当然であると紀彗の懇請を退けた。そして、その責を紀彗に受け継がせたのである。
そうして人質交換が行われた。人質交換の際、紀昌は劉冬と馬呈に会う。劉冬と馬呈は涙を流し、土下座し、離眼を守れなかったことを詫びた。しかし、紀昌は二人が生きていたことを天に感謝し、門出の意味も込めて、偶像を返した。

邯鄲からは善満という武将が派遣されてきており、この儀を見届けていた。そこには李牧もいたのであった。
紀昌達は縛り上げられる。そして、火が放たれた。紀昌は離眼の民に向かって叫ぶ。紀彗がこれより離眼の城主だ、若き父だ、皆で支えよと命令し、紀彗には離眼の子らを守り抜け、頼んだぞ倅よと最期の言葉を口にした。紀彗は怒りの余りに目から血を流していたが、紀昌の言葉をしっかり受け止め、必ずと返した。
それが紀彗の名が外に広まっていない理由であった。しかし、紀彗は火刑で主だった大人達を失ったものの、五年で離眼の力を復活させ、次の三年で暗何も屈服させ、一帯の盟主となった。
羌瘣はそれで人形は何だと問うと離眼の古くからある風習の守り子というものであり、子供達が戦場に出る父に贈るお守りみたいなものであった。
老婆は紀彗軍はさらに強く、黒羊の先に行かせないという士気も高いため、羌瘣に再度軍に戻るのを止めるが、羌瘣は強敵ならなおさら仲間の元に戻らなければと意志を固くもっていた。

黒羊三日目の夜は不気味なほど静かにふけた。そして、黒羊最大の激戦日となる四日目の朝焼けは血のように赤かった。その主戦場となるのは紀彗軍の陣地である。




この離眼の悲劇を聞くと桓騎という相手は最悪の巡り合わせに思えますね。政の夢実現のためにも勝たなければならない戦いではありますが、離眼の民には手を出さないでほしいですね。
そこは羌瘣から離眼の悲劇を聞いた信が止めてくれると思いますが…

第462話 困惑の夜

黒羊丘攻防戦三日目、飛信隊の放った逆転の一撃。しかし、この好機を桓騎は無視した。その行為に将兵の胸に困惑の火が灯る。
この好機を演出した河了貂は怒りを那貴にぶつける。那貴はおれに詰め寄るなといなすが、貂の怒りは一向に収まらなかった。ただし那貴は桓騎は基本ふざけているが、無駄なことは好まない人物であり、今回のこの行動の方が得をすると思ってのこうどうだろうと推測する。貂はそれは何だと聞くものの、それは那貴もわからなかった。

黒桜は摩論の陣を訪れる。黒桜は桓騎からの連絡があるかと尋ねるものの、ないと返事される。黒桜と摩論は今回のこのような行動は時々あるもので、明らかに確信的であり、それは何かわからないものの、桓騎を信じて戦うまでとした。
黒桜は紀彗について尋ねる。現れただけで兵が倍強くなり、自ら乱戦に加わる武勇と兵法もあり、さらに兵の心の掴み方が尋常ではなかったと印象を語る。摩論はそれを聞き、まるで大将軍級と評した。黒桜はそれでも将軍と兵の関係ではないと感じていた。摩論は趙国の抱える危険な武将は一人と漏れず把握しているが、紀彗という名はないと断言する。しかし、黒桜はそれだからこそ、紀彗の底が見えなく、この戦いの鍵を握る人物であると感じていた。

羌瘣は集落の小屋で目を覚ます。起きようとするものの、老婆から寝てるように注意される。老婆は傷の様子から大人しくしていれば明日には仲間の元へ戻れるだろうとみていた。羌瘣は自分が忠告しに来た集落であること認識し、敵なのになぜ助けたのかと問う。老婆はこの集落は趙軍の領土になる前からあり、何人だから敵という認識はなかった。羌瘣はそれでも秦軍からみればここも趙であると言う。老婆はだからここを離れろというのか、行くあてのない旅に出て、一体どれだけもつと思ってる、老人子供もいるんだぞと怒りを滲ませて言い返した。
羌瘣はふと劉冬の持っていた作り物に目を遣る。老婆は羌瘣の懐から出てきたものであり、なぜ離眼の守り子を持っているのかと尋ねる。羌瘣は斬った敵が大切そうにしていたので、拾ったと語る。老婆はそれを聞き、この戦いには離眼の軍が来ているのか、馬呈、劉冬、紀彗様とつぶやく。老婆は紀彗の離眼軍は趙軍の中でも一位、二位を争う強さがあり、秦軍に勝ち目はないため、軍に戻るのはやめておきなと止める。羌瘣は紀彗も離眼もその武名は秦まで届いてないため、それはないと反論する。
老婆は離眼の悲劇の後、紀彗様は外で大きな戦いをしていないから知らないだけと語る。それは十五年前に紀彗達は前城主を含めた離眼の大人達のほとんどを眼前で焼き殺されたというものであった。
それがなければ紀彗は今頃、趙の大将軍になっていただろうと言われていた。



まずは残念ながら、来週はキングダム休載です。
紀彗と離眼兵の関係性が少し見えてきましたね。離眼兵の多くは離眼の悲劇で親を殺された孤児達であり、紀彗を親のように慕い、育ってきたのだと思います。
しかし、離眼の悲劇を見ると人を焼き殺すなんて、桓騎以外にやる人物がいるのかと思うような殺戮だと思います。もしや15年前の悲劇も桓騎がやったのではないかと思うくらいです。もし仮にそうだとしたら最悪の組み合わせですね

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